【 インタビュー 】インドのスタートアップエコシステムの実像と現地進出のヒント | 【 東京都主催 】 東京と世界を繋ぐイノベーションプラットフォーム「X-HUB TOKYO」

【 インタビュー 】
インドのスタートアップエコシステムの実像と現地進出のヒント

vol.33Cardio Intelligence代表取締役 田村 雄一さん
Beyond Next Ventures 中岡 崇さん

2020.03.31

人口13億人を超える南アジアの大国、インド。25歳以下の若者が総人口の過半数を占める大きな市場は、いま世界中から注目を集めています。現地ではITや医療をサービスにしたスタートアップも数多く登場してきました。そんなインドに日本のスタートアップが進出する際、どのようなポイントが重要なのでしょうか。実際にインドでビジネス展開を進めている2社に話を伺いました。


まず、主な事業概要をお聞かせください。

田村雄一さん(Cardio Intelligence代表取締役):弊社は心電図のデータから不整脈や心臓病を発見する人工知能(AI)の診断システムを開発しています。不整脈や動悸を感じて患者が受診した際、医師は一般的に24時間分の心電図を測定してデータを分析し、異常を発見しなくてはいけません。膨大なデータの解析と、それに引き続く医師の診断には、多くのマンパワーを要し、最短でも1週間ほど時間がかかるのが現状です。そうした時間とリソースのロスを解消するために、AI診断サービスを活用することで、データの解析と診断のどちらにおいても時間の大幅な短縮が叶うシステムを開発しています。またAIが病気の前兆を発見することで、医師の診断サポートにもつながります。さらに弊社のシステムはどのメーカーの医療機器で測定した心電図にも対応することを目指している点も特徴のひとつです。
心電図という世界中で行われている検査に対してユニバーサル対応のAIを持つことが強みですので、私たちは創業当初からグローバルに事業展開していきたいと考えていました。理由の一つは医療の市場規模を考えると日本だけでは小さいという点、またAI診断は専門医へのアクセスが悪い地域でこそ現地の医療に貢献できるという強い思いもありました。英語が使えて市場が大きく、専門医へのアクセスが乏しく、今後医療の発達が見込める国はどこか。その3点を軸に海外進出を考えていたタイミングで、Beyond Next Venturesさんが主催するインドでのアクセラレーションプログラムに参加しました。

中岡崇さん(Beyond Next Ventures):弊社は2014年の創業以来、技術系スタートアップに特化したアクセラレーターとして、様々な企業の創業支援と出資を手掛けてきました。2019年にはインドの政府系起業支援のセンターフォー・セルラーアンドモレキュラー・プラットフォームズ(C-CAMP)と業務提携を結び、現在はインドでの投資活動にも力を入れています。インドに着目したのは、マーケットの大きさだけではなく、25歳以下の人口が国民の過半数を占めていることからもマクロな観点で成長マーケットであること、エンジニアリソースが充実していること、そして現地の起業家の「高い熱量」にも惹かれた点にあります。日本のスタートアップとインドのマーケットをつなげる機会をつくり、互いのビジネスの促進を後押ししたいと考え、日本企業の本気のインド進出を応援するアクセラレーションプログラム「BRAVE x INDIA」を主催しました。

どのような内容のプログラムを実施されたのでしょうか?
中岡さん(Beyond Next Ventures):合計7社にご参加いただいた今回のプログラムは、2019年10月からスタートしました。日本で2ヶ月ほどメンタリングや事前のレクチャーを行い、現地でのピッチ用資料などを作成。事業計画を入念に練った上で、12月にインド南部の都市ベンガルール(旧称:バンガロール)を訪問しました。プログラムでは現地の企業や病院などとの協業の提案や、スタートアップイベントへの参加、そして現地の人材の確保などを目的としていました。
残念ながら多くのインドの企業が、日本の企業はビジネスのスピードが遅いという印象を抱いています。「とりあえず視察にきました」というスタンスでいる日本の企業が多く、現地では日本人離れが進んでいるのも実情です。そのため明確な目的と手段をもって、実際にお互いのビジネスが発展することを第一の目的に据えていました。

インドでのプログラムを終えたご感想をお聞かせください。
田村さん(Cardio Intelligence):初めてインドのベンガルールを訪問しましたが、想像以上に近代化された都市で、インフラも整っていたのが印象的でした。こうした環境であれば、デバイスフリーの心電図の記録、例えば運転中の車のハンドルから心電図を記録するといった、スマートシティが実現できるのではないかというイメージが湧きました。また商談を通じて日系の総合病院とコネクションができたのは、大きな収穫でしたね。お会いした病院は、最新の医療技術を提供し、より精度の高い検査試薬を使用するなど、高度な水準の医療をインドで展開しようとしていました。私たちも現地のニーズをふまえながら、今後の事業展開を考えているところです。インドは地域ごとの医療格差が大きく、十分な医療サービスが受けられない場所もあります。もちろん専門性をもつ医師も不足しています。だからこそ私たちが現地でビジネスを行うメリットは大きいのではないかと感じています。
インドのビジネスパーソンは一緒に事業を行いたいと思ったら、すぐに相談を始めるスタイルの方が多く、自分たちの事業が魅力的なのかそうでないのか、はっきりわかる点は面白かったですね。

中岡さん(Beyond Next Ventures):実際に現地の企業と意見交換をするなかで、日印のマーケット特性の違いを日本で計画を練っていた時以上に感じました。例えば医療の分野では、日本とインドで病気に対しての考え方や治療の方法がそもそも大きく異なっていました。日本は多機能で高性能な検査機器が好まれる傾向がありますが、インドでは単機能で低価格なものが受け入れられやすい。知財に関しての考え方も勉強になりましたね。インドでは良いアイディアがあると汎用されてしまう場合もあるので、現地に進出する際は知財や特許に関して事前にしっかりと考えておくことをおすすめします。

今後インド進出を考えている方にメッセージをお願いします。
田村さん(Cardio Intelligence):現地のニーズを入念に把握することが重要だと思います。インドでは課題とされていることが日本では課題でなかったり、その逆の場合もあったりするはずです。自分たちのサービスが海外で本当に受け入れられるかどうかの見極めが大切だと言えるでしょう。例えば医療分野では、疾病の種類や患者の年齢層など世界保健機関(WHO)が公開している資料から国ごとの情報を細かくチェックできるので、事前の調査にとても役に立つと思います。
またインドの中で信頼できるパートナーと出会うためには、アクセラレーションプログラムの紹介する現地法人などのチャネルを通さないと危険だという認識も持つことができました。すでにインドでネットワークがある方と一緒に現地を訪問することもおすすめします。言葉や文化が異なる地域においては、自分たちの秘密情報を保持してくれて、かつ根拠のある情報を提供してくれる信頼できるパートナーを見つけるのも一苦労です。インドではすべての州で公用語が英語+現地公用語になっています。それぞれの地域ごとに使用されている言語が異なるため、英語を共通語としてビジネスをスタートすることは可能です。しかしいざ現地でサービスを展開するとなると、現地の言葉しか話さない方も多く、言語の壁もあります。私たちもしっかりと信頼できるパートナーと一緒に、今後は具体的に事業を展開していきたいと思います。

中岡さん(Beyond Next Ventures):インドのスタートアップや医療市場は今後大きく成長し、世界からもますます注目を集めていくでしょう。インドは、がん、心疾患、脳血管疾患のいわゆる3大疾病の患者数が多いので、まだまだ解決すべき問題も数多くあります。今後も弊社ではインドでアクセラレーションプログラムを実施していく予定です。多くの企業が参加するピッチイベントだけでは具体的にビジネスを進めるにあたって十分ということにはならないので、今後は、さらに個別のマッチングにも注力し、次のステップにつながる成果の創出をサポートしていきたいと思います。