イノベーション大国フィンランドの実像と日本の共創可能性 | 【 東京都主催 】 東京と世界を繋ぐイノベーションプラットフォーム「X-HUB TOKYO」

イノベーション大国フィンランドの
実像と日本の共創可能性

vol.24フィンランド大使館商務部
(ビジネスフィンランド)投資部門

渥美 栄司さん

2020.01.10

国内スタートアップの海外進出を支援するX-HUB TOKYOは10月31日にフィンランドの実像をはじめ、イノベーション・スタートアップ環境、特徴的なイノベーションや注力しているエコシステムづくりなどについて渥美 栄司氏にご講演いただいた。また、フィンランドの雇用経済省傘下の公社であるビジネスフィンランドや連携機関の役割・活動内容についてもご紹介いただいた。


日本とフィンランドは外交関係100周年。
経済協力で関係を強化していく

〈講演者〉
フィンランド大使館商務部
(ビジネスフィンランド) 投資部門
渥美 栄司氏

みなさんがもっているフィンランドのイメージはムーミン、オーロラ、サウナくらいではないかと思います。
フィンランドは人口550万人と非常に小さく、法人税は20パーセントと非常に安く、国としての信用が非常に高く安心できる所です。

 

現在1週間に40便以上の日本 – フィンランド間直行便があります。時差が6、7時間と少なく、われわれとオーバーラップしている時間が長いため、シームレスに働けるという意味でも使い勝手のいい環境だと思います。

 

様々な所で言われ始めているのが、フィンランドはイノベーション力が高いということです。それから、R&Dの人材が多く研究開発立国になる素地があると思っています。今年日本とフィンランドは、外交関係100周年で様々な形で盛り上がっています。2016年に当時のニーニスト大統領が来日したとき、安倍総理と戦略的パートナーシップの共同声明を発表し、経済協力をもっと強めようと双方で盛り上がっている状況です。


ノキアの資産と若者のイニシアチブで
起業をする国に変わる

フィンランドのイノベーションやスタートアップというと、必ずノキアの名前があがります。ノキアの歴史変遷には、アップダウンがありまして、このノキアが今日のフィンランドのスタートアップを支える、一つの原動力になっています。

 

フィンランドの産業構造は、鉄鋼やレアメタルと、機械、エンジニアリング、コンサルティングといったテクノロジー産業が柱になっています。企業規模は、従業員249名以下の企業が92パーセントを占めていて、中小企業やスタートアップ連合体の頂上に大企業があります。他の会社と積極的に協力して、色々な形で組んでいくというのが彼らのDNAでもあるのです。

 

欧米の大きい会社は、リストラするときに実はかなり余裕がありキャッシュをたくさん持っています。なぜリストラするかというと、会社の目標を達成する見込みがなく株主に見捨てられないよう、仕方なくやっているのです。ノキアもリストラを行ったときにはまだ多くのキャッシュを持っていて、起業支援プログラムを組んでビジネスプランを一緒につくったり、専門家を用意したり、起業支援金を出すということをやっていました。この取り組みにより800社ぐらいができたといわれています。その他にも、父親や親戚がノキアで働いている人が多くて、リストラの状況を目の当たりにした若い人達が危機意識を持つようになりました。アールト大学というイノベーションで有名な大学の学生が、起業するという文化をフィンランドに根付かせ起業家マインドを醸成していく活動を始めたのです。そういったノキアの資産プラス若者のイニシアチブによって、起業をするという国に変わっていったということになります。


フィンランドでは
イノベーションの価値観を共有している

ビジネスフィンランドは、日本のジェトロやNEDOを束ねたような組織だと思ってください。応用研究から実際にコマーシャライズするフェーズのイノベーションを、色々な形で支援していく役割を担っています。フィンランドの中小企業やスタートアップの国際展開を支援することと、フィンランドのイノベーションエコシステムを強くしていくというような役割もあります。

 

北欧についていうと、まだリスクマネーがそんなに大量に出回っていないので、パブリックセクターが投資家の役割をかなり果たしているというのが特徴的です。それに対して、シリコンバレーやイスラエルでパブリックセクターというと、スタートアップから好意的に見られていないのかもしれないですが、ヨーロッパではパブリックが結構活躍していて、その中でも北欧はパブリックセクターのほうがより活躍しています。金額についても、フィンランドで生まれてくるイノベーションの60パーセントは、パブリックマネーでブーストされたというようなデータが出ています。そういう意味では、国が小さくて人口も少なくお金も限られている中で、みんなで大事なことにお金や人を投下して頑張りましょう、という価値観が共有されているのだと思います。


フィンランドの
イノベーション領域とは

フィンランドに入ってきたい企業さまは、どういう技術領域かというと、デジタル、IC技術、ヘルス&ウェルビーイングなどです。他に特徴的なのが、バイオエコノミー&クリーンテックが去年から急に伸びています。おそらくフィンランドが、「サーキュラーエコノミーでリーディングカントリーになる」ということを掲げ、一生懸命活動していることが成果につながってきているという気もいたします。サーキュラーエコノミー周りでの、対フィンランド投資も増えてきたように見ています。

 

フィンランドが頑張っているイノベーション領域で見ていきますと、まずデジタル領域です。その中でヘルシンキは、いわゆる行政、パブリックセクターを持っていて、ビッグデータをオープン化し、それを使ったビジネスをつくれるよう環境づくりのサポートをしています。例えば一つの成果としては、MaaSのようなモビリティサービスで大成功しています。
市がビッグデータをうまい形でビジネスに使えるようにして提供していくというのが、フィンランドの面白い所です。

 

次にバイオ、サーキュラーエコノミー領域ですがフィンランドは森林の国なので、木が大量にあります。したがってある程度切っておかないと困るのですが、ペーパーレスが進んで木を使わなくなってきています。それを森林産業は解決するために一生懸命イノベーションを進めています。例えばプラスチックに代わるバイオマス素材等が成功しつつあります。

 

ヘルスケア領域では、国民の電子カルテ情報が3世代分程度ビッグデータ化されていいます。赤ちゃんのときから全てトレースできるようになっているのです。そういったトレースできるデータを束ねて、色々な研究開発等で使えるように法制度を整えているおかげで、フィンランドの特殊なビッグデータを使った、イノベーション創出に取り組みたいという企業さまがフィンランドに入ってきています。

 

フィンランドもAIを社会に実装していこうと、かなり頑張っています。AIの基礎アルゴリズムに強いのかというと必ずしもそうではないのですが、国民の理解度を高めるためにAIのオンライン教育プログラムをつくったり、社会実装が進むために色々な所でAIが使われ始めていることでAIの産業化がスムーズに進みつつあるというのが特徴です。


日本のスタートアップに向けたサービス

フィンランドで新規事業の立ち上げや子会社をつくって、日本に逆輸入できるようなビジネスをつくりたいというときのために、ソフトランディングサービスがあります。ヘルシンキの隣のエスポー市という所に日本人がいて、日本企業さまが頻繁に視察に来られるのだけれど、実際に実現には至らないという悩みを持っています。そこで日本企業さま向けに、腰を据えて取り組みやすい場所をつくれないかということで、エスポー・ジャパン・イノベーションハブという構想を始めました。これは、シリコンバレーでのプラグアンドプレイさんのミニチュア版と思っていただければいいかと思います。

 

こちらの組織も、都市レベルの産業支援局的な所ですので、支援が非常に手厚く、費用が安いという特徴があります。期間も数週間から3カ月ぐらいなど要望に応じています。日本の大企業やスタートアップの皆さまに、フィンランドのエコシステムを内部から見ていただいて、ビジネスを立ち上げていただきたいという思いでこういうプログラムの作成をやっています。
こちらに限らず、ビジネスフィンランドをはじめヘルシンキ、エスポー、タンペレ、色々な都市の産業局も、非常に熱心に皆さまの要望を聞いて産業支援いたします。ご興味持っていただけた方は色々ご相談ください。本日はありがとうございました。